あはははは

いざ、参らん!

中華反転

おれはもう我慢できなかった。

荘厳
と言ってもいいほど重い雰囲気の
会議室を
無言で音を立てて飛び出し、
高級旅館の廊下に敷いてあるような
柔らかい絨毯の上を、
その柔らかさには
意識を向けることなく
駆け抜け、
そして男子トイレと女子トイレを
間違えることなく、
目的の場所にたどり着いた。

そしておれはすべてを吐き出した。
さっき食べた弁当を、
盛大に
全力で吐き出した。
頭の血管が切れるのではないか
と思えるほどの激痛を感じながらも、
力強く、
雑巾を固く絞るように
吐いたのだ。
最後のひと押しと思って
強烈に力んだ時、
音を立てて屁が出た。

この時はまだ
自分を客観的に見る余裕があった。
今考えれば、
この時こそが、
客観的でい続けられるかどうかの
最後の分水嶺だったのだろう。
それ以後おれは、
自分の思っていた客観性に、
少しも自信が持てなくなった。
人が当たり前のように言う
主観と客観の区別なんてものは、
幻想や思い込みの類だという
考えに取りつかれるようになったのだ。

吐いて気分が楽になったおれは、
力んだために頭に上った血が
静まりきらないまま、
ゆっくりと会議室へ向かった。
途中
例の柔らかい絨毯のあるところに
差し掛かったとき、
先程猛烈な速度で移動していたおれを
見ていたであろう同僚のK氏が、
「トイレ行ってたの?」と
遠慮気味に聞いてきた。
おれは彼の方には目もくれず
そのそばをゆっくりと通過した。

会議室の前まで戻ってきたおれは
そこで初めて
気持ちを落ち着ける作業に
意識的にとりかかった。

両腕を軽く回す。
少し胸を張り、
深呼吸をする。
膝を少し曲げながら、
チンポジを確認する。

よし、おれはいける。

そしてドアを勢い良く押し開けると
こう声を張った。
「しゃすいやせーん!」

会議室にいた全員が
こちらを見たかどうかは確認せず、
おれは迅速に自分の席に着いた。